「知り合いの社長から、経営が立ち行かなくなった会社を引き取ってくれないかと打診された」
「業績はボロボロだが、素晴らしい技術や、自社ではなかなか取れない許認可を持っている。うちの営業力と組み合わせれば化けるかもしれない……」
中小・中堅企業の経営を続けていると、こうした「債務超過(資産よりも借金などの負債が多い状態)」の会社を買収(M&A)しないか、という話が舞い込んでくることがあると思います。
一見すると「リスクしかない」、「お荷物を抱え込むだけ」と思える債務超過会社の買収ですが、実は「自社の弱点を補う最高のチャンス」になることもあります。
ただし、普通のM&Aと同じ感覚で手を出すと、自社まで共倒れになりかねない地雷原でもあります。
今回は、経営者が初期段階で確認するべき「見極めのポイント」と、各種リスクの回避方法を整理してみます。
⚠️大前提:経営者仲間の「大丈夫」を鵜呑みにしてはいけない
こうした話は、古くからの経営者仲間や先輩から「実はさ……」と内々に相談されるケースが多々あることと思います。
お互いに信頼関係があるからこそ、前向きに助けたいと思うのが人情だと思います。
しかし、ここに最大の落とし穴があります。
「あいつが嘘をつくはずがない。細かく調べずとも大丈夫。」という信頼は、一切排除しましょう。
恐ろしいのは、相手の社長があなたを騙そうとしていなくても、「相手の社長すら気づいていない、把握していないリスク」が会社の中に眠っていることが非常によくあるという点です。
- 現場の管理がずさんで、数年分の残業代が未払状態で積み上がっている
- 税金や社会保険に未納分があり、督促を受けているが相手の社長は知らされていない
- 昔の取引に関して、将来大きな損害賠償を請求される一歩手前のトラブルが潜んでいる
- 退職金制度の計算が間違っており、将来の支払い義務が帳簿の数倍に膨らんでいる
仲が良いからこそ、ビジネスとして一線を画し、徹底的に「裸の数字」を洗い出すことが、結果としてお互いの身を守ることになります。
ポイント1:なぜ債務超過になった?「原因」を冷徹に見極める
買収を検討する際、客観的なデータをもとに「なぜこの会社はこうなったのか?」の因果関係を分析し、ストーリーとして理解しておくことが非常に重要です。
原因は大きく2つに分かれます。
A. 一時的な不運(復活の可能性大)
例えば、「コロナ禍で一時的に売上が激減した」、「大型投資のタイミングが悪く、一時的に資金がショートした」といったケースです。
会社の「コアとなる強み(商品力や顧客)」は生きています。
この場合、あなたの会社が資金を注入し、経営体制を整えれば、比較的早くV字回復(黒字化)する可能性があると言えます。
B. 構造的なジリ貧(手を出してはいけない、または超危険)
「業界自体が縮小している」、「競合に負けて商品の魅力が完全になくなった」、「無駄なコストが多すぎて、売れば売るほど赤字になる」といったケースです。
これはビジネスモデルの賞味期限が切れています。
単にお金を貸したり注ぎ込んだりするだけでは「ザルに水を注ぐ」のと同じ状況に陥ります。
自社と合体させることで「強烈な引き算(コスト削減)」や「新しい掛け算」が確実に計算できない限り、手を出すべきではないと言えます。
ポイント2:「どうやって買うか」でリスクの範囲を決める
債務超過会社のM&Aでは、買い方(スキーム)によってあなたが背負うリスクの量が180度変わります。基本は「リスクを切り離すこと」ですが、例外もあります。
基本路線:欲しい部分だけをくり抜く「事業譲渡」
債務超過会社のM&Aでは、会社そのものを買うのではなく、「事業(技術、店舗、顧客、スタッフなど)だけを買い取る」という手法をよく使います。
これなら、「欲しい事業」だけを綺麗な状態で手に入れ、相手の「借金や前述した隠れたトラブル」は元の会社に残したまま切り離すことができます。リスクを最小限に抑えるための鉄板の選択肢です。
究極のジレンマ:リスクを承知で丸ごと買う「株式譲渡」
しかし、もし対象会社が持っている「許認可」や「特殊な契約関係」が買収の最大の目的である場合、話は一気に難しくなります。
なぜなら、多くの許認可は「会社(法人人格)」に紐づいているため、上記の「事業譲渡」で事業だけをくり抜くと、許認可が引き継げず失効してしまうケースが多いからです。
許認可をどうしても手に入れたい場合、「過去の隠れた借金やトラブル(簿外債務)をすべて引き受けるリスク」を覚悟の上で、会社を丸ごと買い取る(株式譲渡)という茨の道を選ばざるを得ないことがあります。
この場合、通常よりもさらに何倍も厳重に調査を入れ、リスクを徹底的に洗い出した上で、退路を確保しながら進める必要があります。
ポイント3:「いくらで買うか」の常識を捨てる
普通の買い物なら「価値があるものには高いお金を払う」のが当たり前ですが、債務超過会社の場合は違います。価値があっても、「背負う負担」との兼ね合いで買収価額が決定されます。
- 事業譲渡
くり抜く事業の収益力に基づいて利益の●年分などの方法で価格決定していきます。
(背負う必要のない負担は置いていくため、価値が高ければ高い値段となります。) - 株式譲渡①~「1円」で買うパターン~
理論上、価値はマイナスなので「1円(形だけの金額)」で株を引き受けます。
その代わり、買収後にあなたがその会社の資金繰りを助ける(社長の個人保証を肩代わりするなど)ことで、実質的な負担を負います。
対象会社の持つ強みが将来収益に貢献し、債務返済に留まらず「自社グループ全体への収益貢献」が期待される場合に取り得るパターンです。
価値のマイナス分を大きく上回る将来価値が期待できれば、1円以上とすることもあり得ます。 - 株式譲渡②~「お金をもらって」引き取るパターン~
放置すれば倒産するしかない会社の場合、相手の親会社やオーナーから「撤退費用・迷惑料」として資金をつけてもらい、実質マイナスの価格で会社を引き取る(その資金を元手にあなたが再生させる)という取引もあります。
補足:「税金のボーナス(繰越欠損金)」を使えるかを確認する
赤字続きの会社には、過去の赤字を将来の黒字と相殺して「税金を安くできる権利(繰越欠損金)」が眠っていることがあります。
これが自社の節税に使えるかどうかは、買い方によって厳しく制限されています。
「宝の持ち腐れ」にならないよう、最初の段階で「税金を一番安くできる買い方はどれか」をシミュレーションしておくことが重要です。
まとめ:信頼と冷徹なビジネスの目を両立させる
債務超過会社の買収は、一般的には高リスクな投資ですが、「仲間内の話であっても徹底的に調査すること」、そして「許認可などの目的に応じて、リスクを覚悟するか切り離すかを正しく選択すること」ができれば、成長の起爆剤となる可能性を含んでいます。
「おもしろい話があるけれど、ちょっと怖い」、「友達の会社だけど、どこまで踏み込んでいいか分からない」などの状況にありましたら、お気軽にご相談ください。